2017年09月29日

本「福島第一原発 1号機冷却「失敗の本質」」NHKスペシャル『メルトダウン』取材班




 固唾を呑んで見守ったのが昨日のことのようです。
 何回か書いてますが僕はその昔部活(ブラタモリ部)でちょっとだけ原発のメカを齧っており(チェルノブイリ事故の直後だったのです)、その夜、確かニュースで「ECCS(緊急時炉心冷却システム)が作動している」と聞いたもんですから「ならたぶん大丈夫だ」とちょっとだけホッとした記憶があります。
 1号機のIC(通称イソコン)がECCS扱いではない、なんて当然知りませんでしたし、2号機3号機のECCS(にあたる装置)も時間稼ぎしかできずパーマネントに作動するものではない、とも知りませんでした。
 つまり何も知りませんでした。
 いやそりゃあんたは素人なんだからそうだろう、と。でもプロは、といえばこれがまた知らない。
 あまりにシステムが巨大すぎ複雑すぎ、かつ40年という長きに渡って続いていく技術なので伝承が極めて難しい。
 その模様が克明に描かれています。

 具体的には前述のICですが、これは電力が不要で蒸気の力で動くために、緊急時にまず一発目で回る冷却系、という設計だったそうです。建造中や運転開始直後に試験運転してる様子を観たOBの証言がある。
 ところがいつの間にか動作確認の試運転はやらなくなり、かつSR弁という別の安全装置が先に動くように設定替えされている。それをそのOB(勤務地は当然変わっていくので、ずっと1Fに居たわけではない)が聞くと「えっ」という反応。「そんな重要な変更をするなら技術提案書とかなんとかがあるはずだけど……」もちろん無い。正確に言うと記録が無いからそういうものがあったかなかったかもわからない。どんな議論がされたかあるいはされてないかもわからない。

 結局、苦心惨憺消防系から入れた水は、あっちこっちで分岐して他所に流れ込み、ほとんど炉心に入らない。「この系統なら入るはずだ」の知識まではなんとかあるんですけど、その先、分岐先を実際に止めてる弁が地震や津波あるいは水素爆発によってどう変化しているか誰も知らないので、ダダ漏れに気づかない。

 無理でしょう?

 印象的だったのは人類開闢以来、巨大官僚システムで脈々と受け継がれるキャリア・ノンキャリア方式が原発でももちろん採用されており、吉田所長(キャリア)は運転のことを何も知らないんですね。それを統括するのは当直長(ノンキャリアのあがりポジション)で、ここに大きな断絶がある。1号機の水位計が一瞬だけ復活した時、水位が通常よりえらい下がってるので、それはつまりICが動いてないってことではないか、と現場は不安に思い連絡もするんですけど、中央はその重要性を理解しきれずにそのまま放置してしまう。
 そうこうしてるうちに2、3、4号機が次々に危機を、それも違うタイプの危機が訪れて1号機のことを忘れる。
 不眠不休で72時間経つとどんな人間もだいたいなにもできなくなるそうで、吉田所長倒れる。代わりは居ない(用意されていない)。

 無理やと思います。

 巨大システムの本場・アメリカだとそのへんはもうちょっとしっかりしてるようですが(そのあたりも本書で)、といっても彼の国もお大事のスペースシャトルを5機中2機も爆発四散させており、ある閾値を超える大きさと複雑さのシステムは、人間には根本的に扱い切れないものなのではないですか。
 物理的、機械的な面はもちろんながら、上述のような官僚機構による意識・情報の断絶はもはや手の打ち用もない。本書にあるように、所長以下関係者に知識・経験・士気すべて揃っていても、巨大システムはそれ自体生き物のように崩壊・暴走し、それに対して人間は無力。

 無理。

 たかが電気を起こすだけのもので他に代替手段はいくらでもあり、かつ代替手段の方が遥かに安くつくこのご時世です。
 ご存知ですか今ドバイやアブダビのメガソーラー、kWhあたり3円ですよ。デンマーク沖の洋上風力でも6円。太陽光や風力は装置産業なので、装置が量産されると劇的にコストが下がるんですってば。
 あなたのご家庭がいまkWhあたりいくら払っているか検針票ご覧くださいな。しかも今の時点でこの事故処理に8兆掛かってて、これからいくら増えるか見当もつかない。これわたしらの電気代でこれから返しますからね。

 最近、理性や知性は想像よりずっと限界値の低い能力で、これに頼るのはパフォーマンス的にも効率的にも良くないんじゃないか、と思います。後世、長い20世紀は「過度に人間の理性と知性に頼りすぎた世紀」と呼ばれるかもしれません。
posted by 犀角 at 00:10|