2018年03月20日

本「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」新井紀子





 話題の書です。
 衝撃的ですよ。

 著者数学者(ちなみに最初は一橋・法学部という変わり種)前半は「東ロボくん」(東大を受験して入れるAI(技術)を目指す)プロジェクトの推進役としてAI(技術)の現在地とその限界を丁寧に解説。

 AI(技術)=コンピュータができることは数学で記述できることだけであり、その数学にできることが現状「論理」「確率」「統計」だけである以上、それらで捉えきれない部分にAI(技術)は対応できない。
 したがって、シンギュラリティなんか起きるはずもない。

 という理路整然たるお言葉。
 なるほど。
 ちょっと安心したような、ちょっと夢が色褪せるような。

 ただし、AI(技術)は「意味」を理解せずとも、上記3種を操るだけなら人間より遥かに上手くやる。この武器だけで現状でも偏差値にして57前後、MARCHや関関同立の一部学部に合格できるレベルだそうです。
 ということは、それらぐらいの学力を必要とされるホワイトカラー、事務職は置き換えられる=職を失う可能性がある。

 ということは結構たいへんですよね。
 それならばもっと人間は「意味」を理解し、それに対応できるようにならないと。

 さあここからが問題だ。
 ここまでだったらこんな話題の書にならない。

 ここで「大学生数学基本調査」をしてみると、ものすごい回答がでてくる。あれ、これはひょっとして「数学」以前のところ、すなわち、まさか、「問題文が読めてない」?

 ということで全国25,000人を対象に「基礎的読解力」を測るテストを考案する。それは以下6ジャンル。「係り受け」「照応」「同義文判定」「推論」「イメージ同定」「具体例同定(辞書・数学)」。
 AIは前2つが得意で、まだ難しいのが同義文、まったく歯が立たないのが後ろ2つだそうです。
 問題1つ引用します、AIも得意な「係り受け」で、

---(以下引用)

次の文を読みなさい。

 Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。

この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。

 Alexandraの愛称は(   )である。

1 Alex  2 Alexander  3 男性  4 女性

---(引用以上)

 どうすか。答えは当エントリ末尾に。
 これができない。
 正答率高校生でも65%、中学生に至っては38%。
 ていねいに文字を追えばできる(はず)のこれでこの有様。このあと本編ではこれ以外のタイプの問題とその正答率が出てきます。割と真っ青になるレベルです。結果(一部)まとめると、

・中学校を卒業する段階で、約3割が(内容理解を伴わない)表層的な読解もできない。
・学力中位の高校でも、半数以上が内容理解を要する読解はできない。
・進学率100%の進学校でも、内容理解を要する読解問題の正答率は50%強程度である。

 つまり読めてない。

 これ最近の子どもたちだけじゃなくて、(幸か不幸か)教育システムそのものはさほど変わってませんから、昔から、つまり今の大人達もおそらくだいたいそうです。さらに、日本は読解力調査でOECDトップ10に入ってるそうですので、世界的にも状況は似たようなもん。

 ひゃーっ

 って感じですよね。わたし個人で言いますと、そんな読めない人に向かってどう文章書いたらええのか皆目わからへん(笑)
 いや笑い事じゃないけど。
「わざわざエンタメ文章読むような層は、ちゃんと読める層なのでは……」
とお優しいフォローをしてくださるそこのアナタ。
 調査の結果、それ相関関係無いんですって。読書の好き嫌いや量と、読解力の間には。
 ひゃーっ。
 強いてあげると相関関係あるのは経済環境だけだそうです。

 つまりそれって民主主義なんて成り立ちようがないっていうことでは……
 一応構成員全員が課題を理解してないと成立しませんよね……

 掲示板、ブログ、SNS、いやネットに限りませんが、「この人おかしなこと言わはるなあ」というシーンをたまに見かけます。これなんのことはない、思想信条とか、認知の歪みとか、そういうロジカルな話の前に、単純に「読解力が足りてない」というフィジカルな可能性がでかい。
 しかもこれ恐ろしいことに、読解力なんか無くてもそこそこの大学に通ってそこそこの企業には行ける。
(最近企業側がそれ=学歴がフィルタにならない、に気づいて「もっと使い物になる人材を育ててくれ」と大学にプレスを掛けてるそうですが)
 つまり自分に「読解力がない」ことに気づかない。
 さらに人間歳取ると柔軟性無くなってきますから、ますます自分が「読めてない」ってことに気づかず、まっとうな論理的指摘を受けると、フリーズもしくはブルースクリーン。「パヨクが!」(あるいは「ネトウヨが!」)と逆上して喚き散らして名誉毀損で裁判起こされて賠償金1000万ですわ。
 おそろしいですね。

 盲点であればあるほど突かれると人間逆上するものですが、「君、読めてないな」という(事実の)指摘ほど盲点らしい盲点、突かれると死ぬほど痛い盲点は無く、だからあんなに、新燃岳みたいに噴き上がるんですなあ。
 まさか誰しも自分に基礎的読解力がない、なんて一ミリも思わないもの。

 かつそこへ持ってきて「先生」と言われる人たち、教師・医師・学者、あとジャーナリスト、あるいは作家、つまり文章の書き手たちは(だいたい)読める人ばかりなので、「相手が読めてない」ということを想定せずに議論を進めてしまいます。ますます溝は深まるばかり。

 わたしもたまーに文章が「難しい」というご指摘を受けることがあるのですが、それはいけないいけないと思いつつもオタク特有の晦渋がついジンワリと滲み出てしまっていた、とかそういう話かな、と勝手に想像しておりました。ちゃいますね。たぶん。あれ? いや、どうかな……
 いやもちろんわたしもこのテスト受けると悲惨な結果を出すかもしれません。一応載ってる例題は全部正解したんですけど……ああこのテスト受けてみたい。

 ただ光明あるのは、新井先生はある体験例から論理能力はいくつになっても向上するのではないか、という仮説をお持ちです。(それは本編で)
 またこのテストに協力的だった埼玉県戸田市、こちらがこの結果を受けて先生方一丸となって基礎的読解力向上に取り組んだところ、いままで埼玉県内で中位だった学力テスト結果がいきなり1位を獲ったりしたそうです。
 ですから、いまダメだからといって、どうしようもないとか、手遅れとかいうわけではなさそうだ、と。

 この本はこの後半部分がショッキングなので、むしろここが広く読まれて欲しいと思います。またそれに基づいて、適切な教育メソッドが開発されて子どもたち(大人も)の基礎読解力が高まりますことを期待したい。
 うちの奥さん(は翻訳者で、AIが怖すぎてこの本を買ったのですが)が言っていたのですが
「こういう研究は出版社が支援すべきじゃない?」
 わたしもそう思います、読める人が増えれば本(読書)の楽しみを知る人が増え、本もきっともっと売れよう。

 我が家では「新井ショック」と名付けました。
「なんでこの人こんなこと言うんだ」
と理解不能な出来事が起きた時、いままではその機序、彼/彼女の中で行われている論理の流れを理解しようと無益な努力を重ねたものですが、おそらくそれは、
「読めてない」(聞けてない、わかってない)
だけのことです。
 それならば、心穏やかに清流のせせらぎのように聞き流すことができます。
 かな?

 世界の観方が変わる本こそAクラスでしょう。
 「コペ転」てヤツですわ。
 まさかまさか、おおかたの人が「読めてない」なんて思うわけじゃないじゃないですか。

 子どもたちがんばれ。君たちならまだ間に合う。

(問題の正解)
もちろん1のAlexです。
外しちゃったらとりあえずすぐこの本を買って読むべし。
posted by ながたさん at 00:06|