おうちにベンツが来たぞー!
家人が個人売買で手に入れました。
色パール、ナビ・スライディングルーフ・ナイトパッケージ(電動メモリーシート&専用ホイール)付きもちろんD車(ヤナセ)。距離17,000、前オーナーが撫で擦るように大切に乗ってたので内外装ビッカビカです。
Aクラスというのはメルセデスにおいては……と歴史を語り出すと隣の奥さんがエクトプラズムの抜けた顔をするので割愛して、つまり「ベンツのゴルフ」です。呪文を唱えると「FFのCセグメント・ハッチバック」。世界で最も売れるボディタイプ・サイズで、先述のVW・ゴルフを筆頭にフォード・フォーカスやルノー・メガーヌ、プジョー308、日本勢ではマツダ・マツダ3(アクセラ)、スバル・インプレッサ、あるいは日本市場で復活なったホンダ・シビックやトヨタ・カローラ(のハッチバック旧名オーリス)。
いずれも大名跡、つまり各社気合いの入ったエースが集う最激戦区。SUVだHVだいやEVだと激変中のクルマ・シーンにおいても、王道直球ド真ん中、いわばファミレスにおけるハンバーグ定食です。
ロイホやデニーズやガストが覇を競い、あるいは地元の洋食屋も腕によりをかけるこのボリューム・ゾーンに、ランチでも3000円以下ではとうてい食えないような高級レストランが殴り込みを掛けた……のが現行Aクラス。
(ちなみにこれ3代目で前2代はまるでコンセプトが異なり、たいへん野心的。そちら興味あるかたはググるかウィキってください)
で乗ってみた感想。
「製品としては多少無理があるけど、商品としてはエグい」。
メカ的に(また呪文を唱えますが)ダウンサイジング・ターボにDCT(デュアルクラッチ・トランスミッション)、というまったくVW・ゴルフに真っ向対抗している──のがモロに災いしてて、ハッキリ申し上げましてゴルフのほうが数段デキが良いです。
逆に、こんなメカであんな完成度を誇ってるゴルフはスゲエな!と感心し直しました。
「ダウンサイジングターボとか意味あらへんで」
とマツダのMr.SKYACTIV・人見常務が事あるごとにブツブツ呟くように、ホントにこれ意味ないですね。というか繰り返しますがこれを成立させたVWの(変な)執念がすごすぎるだけで、普通に作るとこうなっちゃう。
つまり微低速トルクの無い(ボディサイズに比して)小排気量で圧縮比もターボ用に低いからスッカスカ、それを伝えるトランスミッションが普通のトルクコンバータ付きステップAT(もしくはCVT)なら、トルク増幅効果でまだ多少ごまかしも効くものの、よせばいいのにデュアルクラッチ系だから生トルクそのままダイレクトに伝えちゃう。
要するにとにかく出足で前に進まない。
はじめて運転した弟が、真っ青な顔で(たぶん)運転中にLINEしてきて、
「これなんかドライブモードとかあるの!?
遅すぎて軽に置いていかれる!!」
もちろん僕の答えは、
「いいから踏め」
アクセル踏んで燃料を過剰に供給すると(つまりガソリンをたくさん使うと)ようやくターボが回りだし、力がモリモリ出て(いうてもMax20kg・m程度、つまりNAの2000cc程度ですけど)ダイレクトなDCTを伝わって俄然走り出す。
で、走り出してしまえばそこは痩せても枯れてもメルセデス。スリーポインテッド・スターを燦然と輝かせるだけの誇りと拘りがてんこ盛り。オプションの18インチ・低ハイト・シューズは切り始めから極めてクイックなハンドリングで、まるでNBA選手のように右に左に左に右にステップを踏みまくる。
なにより白眉はその「Mercedes-Benz」ロゴ入りブレーキで、軽く踏んだだけで地球の自転が止まりそう。タッチ・剛性感・実の効きいずれを取ってもここばかりはいつまで経っても国産車と欧州車の違いを見せつけられる素晴らしさ。(その代わりダストすごいけどね)
簡単に言うとヤケクソにスポーティ。
穿った見方をすると、「ゴルフがやってることぐらいウチでもできるだろ」と標準的なFFにダウンサイジング・ターボ+DCTを使ってみたら、どこをどうやってもゴルフのような完成度にならず、慌ててとにかくスポーティな出で立ちと装備を整えて「踏めばごまかせる」という仕立てにでっち上げた、感がありありです。
そりゃ普段セレブ相手の高級レストランが「ちょっとやってみようかな」と作ってみたメニューと、「これがダメならお店が終わる」という危機感で造り込まれた本気のド主力メニューでは、やっぱりトータルの差は出ますよそりゃ。
いつも思うことですが、メカというのはフォーマットや形式そのものが良さを生むわけではなく、どれだけそのフォーマットの良さを引き出すように丹念に丁寧に作り込むか、ですわ。
逆にメルセデス擁護方面から穿つと、やはり基本的に顧客年齢層の高いブランドだけあって若い人が欲しい。若い人狙うならスポーティだ。よし踏めば走るようにしよう。
「そんな単純なもんかいな」
と思っちゃったりもしますが、現実はその狙い通り実に単純で、他のメルセデスより10歳若い顧客を全世界で5年間で300万人もゲットできたようです。
すごいですね。
あと細かいことを言うと、
「シューズが大きすぎてドタドタする、特にリア」
「スライディング・ルーフ近傍から低級音」
「ATセレクターがこんな形と場所である必然性あるか?」
「操作性悪いなこのナビ!」
「でもスマホを掲示できる場所はない」
など疑問もいくつかありますが、そんなんは慣れで。
ウインドウの天地方向が狭くて穴蔵感あるのも個人的に好きでないですが、まあこれはスポーティとも言える。広いのがよけりゃミニバンでも乗ってなさい、と。
いや5年前というのは言い訳にならないですよ、ゴルフ7も現行アクセラも同年デビュー。
ということで、このクラス、つまりCセグハッチバックが欲しいなら、僕はやっぱりゴルフおすすめ。だいぶ安いですしね。
外車は敷居が高い、と思われるのならばマツダ・アクセラ(ベストバランスは1500ガソリンですが、飛び道具が欲しければディーゼルで)か、スバル・インプレッサ(FF1600も良いですが、こちらはできれば4WDにして重い車重と足りないトルクを2000で補う。せっかくのスバルだし)。今度のカローラ・ハッチも新世代ボディなので期待大です。得意のHVあるでしょうし。
さあ。
ほいじゃ結構ピーキーなクルマが来ちゃってガッカリしてるか、というとさにあらず。ここで、
「製品と商品は違う」
という製造業一般の永遠のアンビバレンツが炸裂します。
商品としては、すばらしいのよ。
見て、この夜ドア開けたらランプが柔らかに足元を照らし出し、スカッフ・プレートに浮かび上がる「Mercedes-Benz」の光文字。
このギミックそのものはある程度(だいたいベースグレードで250万とか)の額から上のクルマには普通にオプションで用意されてるものですが、これがこんなに威力を発揮するのはやっぱり「メルセデス・ベンツ」だから。
わたしこのクルマ乗って平日昼間の動物病院にネコ連れて行ったんです、歯の治療にね。adidasのジャージ着て。
もうすごいよこのシチュエーション、愛車マツダ・デミオだったらなんの問題もないこの姿が、ベンツになった途端、なんか小狡いことして小銭貯めた小悪徳中国人実業家なぜか日本在住、暇と金はあるからペットに夢中、みたいな姿になる。
ベンツすごい。
ベンツすごい。
もう深夜のガストとか恥ずかしくてこれでいけない。ベンツ乗ってるくせにセットドリンクバーのスマホクーポン10番を出すとか到底できない。縦並び入れ替えしてでもデミオ出す。
ルイ・ヴィトンのモノグラム・シリーズを平気で使いこなせるかどうか、みたいな。この気恥ずかしさは「外車」とか「変なクルマ」っていう括りではおそらく発生しない。なぜなら私もそういうのは3つ乗って経験している。
やっぱりそれは、ベンツだから。
ああ、そりゃみんな欲しがるわ。
そしてそういう場合、「欲しいならお売りしますよ」と言われたものをありがたく頂戴、つまりいただいて・いただけばよいのです。
デキがいいとか悪いとか言ってるような客はいや客になろうとする気の無い者はこちらからノー・センキューいやナイン・ダイケ、社是もちろん「最善か無か」、「メルセデスかそうでないか」が問題であって、それがどういうモノかなどはまるで問題ではないのです。
それが、わずか、300万円からスタート。
すごい。
すごすぎる。
もう買うしかない。
買おう!
イエス・メルセデス・イエス!
クルマには「社会との関係性」と「自分との関係性」があり、どちらに重心を置くかはもちろんその人それぞれで良いも悪いも無いのですが、わたしのようなクルマ・バカどもは基本的に後者ばかりを考えがちで前者を無視あるいは軽視しがち。
しかし、どちらにせよ極まっているものにはそれ相応の魅力・魔力・破壊力があり、前者極めたるこのメルセデス、いい勉強になりました。
人はクルマを買うのではない、クルマで得られる体験を買うのだ。
本国で新型(4代目)が出たので夏には日本にも来るでしょう。もともと中古車お安い(200も出せばピカピカのが買えます)3代目、さらに安くなりそう・かつ・そもそも乗り方が丁寧な個体が多そうな車種なので、この気恥ずかしさに身悶えたい方はぜひどう……いや2013で200出せば先代Cが買えるな。そっちかな……いやそれはこの項の主旨に反する、クルマは物を買うんじゃない、気合いを夢を希望を買うんだ。
この葵の御紋(のようなスリーポインテッド・スター)、誰よりもドライヴァーの身と心に効きますぜ。