2015年05月19日

新型マツダ・ロードスター 試乗(ND型、4代目)


http://www2.mazda.co.jp/cars/roadster/pre/

 笑顔になる。

 マツダ・ロードスターがモデルチェンジしました。
 栄光の初代ユーノス・ロードスター('89)以来四半世紀4代目、世界累計100万台間近の大名跡、堂々の襲名披露でござる。


 その食べ物屋さんがいい店かどうかなんて一発でわかります、食べてる人あるいは食べ終わった人が笑顔かどうか。食べログの点数なんか見なくていいし、ファストフードか高級懐石かなんてもっと関係ない。
 ご興味ある方はtwitterででも「ロードスター 試乗」と検索してください。何枚かものすごいエエ笑顔の(主におっさんの)写真が見られると思います。もちろん私も試乗降りてきたところを撮られたら、まるで初孫を見るおじいちゃんみたいな顔してたでしょう。
 ということで超いいクルマ。

 以上終わり。
 以下時代に取り残されつつある我ら愛すべきクルマ・バカ諸氏のために多少細かく。長いよ。

 金曜日に毎度の”ケイマン・ダンディ”O君と宇陀話に管を巻いておりましたら

「早く6月になんないかなあ。ロードスター試乗したいなあ」
「あもうなんか配車始まってるらしいですよ」
「マジで」

 早速web開いて自分のディーラー検索すると試乗車の列末尾に
「ロードスター」
の文字が。おいおい嘘だろデリバリーも始まってないのにもうナンバー取ってんのかよまさかね展示だけでしょまあ展示だけでも見れればいいか、と翌日オットリ刀を装備してデミオの点検だと言い訳を用意して駆けつけ……あったー!
 色ソウルレッド、Sスペシャル、6AT、もちろんナンバー付き。
 担当セールスさんニコニコで出てきて店舗にも入らず試乗開始。

 まず幌が素晴らしい。
 初代(NA、ちなみに2代目NB、3代目NCとロードスターは型式わかりやすいです。型式で呼ぶのはマニアアピール的カッコつけではなく、同じ名前で何世代も続くので、区別のためです)は何度か乗ったのですが、ビニールのリアスクリーン部分をファスナーで下ろして、天井両サイドのロックを外して、よっこいせと後ろへ畳んで、できればトノカバーを掛ける。これでも当時は「あっという間にオープンになる」と好評だったものです。クローズ時もちょっと重いですが頑張れば座ったままできました。
 NBはその改良だったのですが、NCに至ってRHT(リトラクタブル・ハードトップ)という電気仕掛け屋根が登場、ボタンポチーで屋根畳まれます。これは上述のO君が乗ってたので経験したのですが、安楽な上に閉めてしまえばハードトップ車と変わらない快適性、これはこれでいいものでした。

 ただこのRHT、一時世界的にすっごく流行ったのですが最近急激に廃れつつあります。車重が数十キロ単位で重くなるとか、複雑な機構でコストが掛かるとか、わかりやすい理由はあるのですがそんなことは最初からわかってることで何をいまさら……と、このNDに乗って廃れた理由よくわかりました。
 NDの幌、天井真ん中のロックレバーをカチャ、と外してその左手をよいしょと後ろへ持って行き、最後に手のひらを返してパンッ!と押す(叩く)と、ハイいっちょ上がり。この間慣れればたぶん5秒。閉めるのももちろん同じ。バネで一番重い最初の数cmを跳ね上げてくれる工夫があって、NAよりずっと軽いです。
 そら電気仕掛けとかバカバカしいですよ。雑巾で拭けば済む掃除にルンバ走らせるようなアホっぽさがある。

 私も実車見るまでは「いずれRHTか電動ソフトトップが追加されるのでは?」と想像していましたが、これなら出ないんじゃないかな。これ体験してまだ電気屋根欲しいって言う人は居ないと思います。
 いや、私も体験するまではこういう「技術の再逆転」が起きてるとは思いもしませんでした。なかなか起きないですからね。バックアップストレージの本命がテープ・ドライブに還ってきつつあるぐらい?

 早く走りだせ?
 はいはい、試乗車ATですのでちょっとバックして駐車スペースから出しまして、さあいざオルガン式アクセルペダルを吹かして出発……
 ってもうその、店舗出る前から笑いが出る。
 若い頃に「ポルシェは30m走っただけでポルシェだ」などと教わりましたが、
「ロードスターは3m走っただけでロードスター」
ですよ。
 もちろん公道に出て鞭を入れると口角角度急上昇、10度20度30度。
 このステアリングの嘘臭いまでの自然さ。
 絶対これ嘘やと思います。
 iOSのQWERTYキーボードが、ディスプレイ上の表示とタッチパネルの担当領域が違う(=当たり判定をズラしている)ことによって小さなボタンでも打ちやすい、というのは有名な話ですが、そんな感じ。表現は微妙ながら
「作った自然さ」
です。
 電動パワステですし電動スロットルですし、ドライバーが何をしたいか意図を汲んで「そんな風にいいかんじに」やってくれてるイメージです。
 最近のクルマ全般的にそうなんですが、ここの表現は国産勢ではいまマツダが一番巧いと思う。(富士重のクルマがまたごく最近往年の輝きを取り戻しつつあるそうなのでレヴォーグのB型とか乗ってみたい)

 ホスピタリティ、流行りの言葉で言えばおもてなしは、タダでナチュラルに発揮されるものではなく、相手の気持ちを想像しつつ自らの技能を総動員して「作られる」ものですから、これでいいのです。
 少なくともこの2015年に、普通の人を相手にする量販車は。

 エンジン。
 この1500ccはアクセラに既搭載で評価の高い新世代なのですが、さらに高回転寄りにチューンされてるようで下のトルクはさほどでもなく、しかし踏むとぐんぐん伸びる。
 往年のホンダ車は「回す」という感じですが、マツダのSKYACTIV車は「踏む」という感じです。スロットル開けて開けて。燃費落ちないからそんなに。
 1000kg前後しかない車重なのでもちろん街中では十二分の動力性能。高速でも目くじら立てて飛ばさなければ(たぶん)全然イケますよ。
 わたし旧世代最後の1300ccミラーサイクル+CVTに乗ってますけど、こないだ大人5人乗りで西名阪かっ飛ばして右レーンキープです。スペックシート見てるとなかなか気づかないんですが、効率以外にも絶対的な使い勝手としてエンジンは地道に進歩しています。

 これも先代NCが2000ccのエンジン積んでましたんで「パワーが足らんのとちゃうか」という不安の声が一部あったのですが、いやあ、これ乗ると別に2000は要らない。
 特にこの言説の根拠として、アメリカでは2000が用意される、というか2000だけなんです。
 ただこの2000は、1500よりデビューがわずかに古いためか、回り方やトルクの出方で1500に及ばないようで、前述アクセラがデビューの時も「これ2000要るか? パワー欲しけりゃディーゼルあるし」てな調子でした。わたしこの2000はアテンザに乗った状態でしか知らないので同じボディに載せた時の1500との違いを明言できないのですが、まあ多くの人がアクセラの時に「おすすめは1500」と言っててですね……

 エンジンというのはおもしろいものでして、排気量やパワー/トルクの変化はもちろん、世代が新しくなっても「前の方がよかった」と言われることもままあります。
 古くはヒット作・日産S13シルビアがCA18からSR20に載せ替えた時、あるいは長年作られたスズキ・カプチーノが末期にF6Aからオールアルミで軽量化までされた最新のK6Aに載せ替えた時、
「前の方がよく回った!」
と言われたもんです。あとプジョー205/309兄弟GTIの1600と1900とか。ヴィッツの1000が古い1SZが4気筒で新しい1KRが3気筒、音と振動の面では1SZの方が全然いいとか。
 全く新しいスゴイ2000が載るならともかく、現状のマツダの手持ちならおそらく1500の方が(若干ながら)いいエンジンなので、距離が長いケースが多いためにどうしても排気量が欲しくて「2000しか積めない」北米がむしろ可哀想だ、と考えよう。

 ミッション、ATはマツダ内製のSKYACTIVミッションではないのですが(MTはもちろんそれです。好評価です)、信頼のアイシン製。タイトで反応もよくまるで他車に載ってるSKYACTIVと変わりないフィーリング、いいデキでした。(FR用縦置きATをこのクルマのためだけに開発するのは割にあわないので、買ったのでしょう)
 このワタクシ、車歴に3台MT車があって本気でこのクルマ買うならまあたぶんMTにすると思うこの私でも、
「これもうATでいいんじゃないか?」 
と思ってしまいました。
 販売戦略的に言いますと、ATの方は今までのように
「どうしても(様々な理由で)MTに乗れない人への救済策」
というモデルではなく、それこそメルセデスのCLKですとか、BMWのZ4ですとか、あのあたりの「セカンドカーに軽くオープンカーでも」とお考えの方にも食い込めるモデルではないでしょうか。
 ともあれいずれMT車もなんとか試乗したいところ。

 乗り心地いいですよ。
 新世代マツダ車でいちばんいいかも(笑)ホイールベース短いのでピッチングは出ますけど、サスの動きがいいのか気にならないです。
 風のコントロールも抜群。
 サイドウィンドウ上げてましたら頭上を(わたしの少ない頭髪をサラサラと撫でるように)吹き抜けるのを感じるぐらいで、不快な巻き込みはほとんど無し。
 それでいてAピラーがかなり手前にありますので、開放感というか、なんでしょうね、昔のクルマみたい。僕が乗った範囲では旧ミニみたいな、
「ウインドスクリーン(風防)が眼の前に垂直に立ってる」
という感じが新鮮です。この視界の感じは4世代で一番変わってるので、むしろロードスターオーナーにはここが「おっ、変わった」と思うかもしれません。
 でも肩から上は開放感、下は包まれ感のあるいいコックピットです。
 フェンダー峰が見えて車幅感覚が掴みやすいのも美点。坂井三郎は絶好調時には零戦の翼の先を指先のように感じてですね……

 もちろん最近のマツダのこだわりどころ、ドライビング・ポジションは文句なし。これも何回も言及してますけど、CX-5からロードスターまで、車重からサイズからパワーから駆動方式まで違う、どれに乗っても3分もすれば長い間乗ってるかのような自然さで取り扱いができる、これはとても地味ですが、とてもスゴイことだと思います。
 特にこの手の小型車は寸法ギリギリで作るので、ヘタすると日本車でも輸出用の左ハンドル車(ペダル類を右に寄せてタイヤハウスを避けられるので、右ハンドルよりドラポジが楽)を基準に作られてて若干左オフセットのペダル踏まされたりするのですが、ここはロードスター、というか最近のマツダは譲らない。

 ダッシュボード上に生えるマツダコネクトも、ついに日本製地図投入かつ今まで買ったアクセラ・デミオ客には全数無料お取り替えという豪快な施策でだいぶ文句減ってます。
 これは最近クルマ購入を考えてる人みんなに言うのですが、マツダ車は約5万の地図カード買うとナビになるので、バックカメラ分を合わせてもメーカーナビ25万の他メーカーに比べ15万ぐらい実質お得なんです。(もちろんナビ要らないって方には割高になりますが)
 これにしろCX-3にしろ「高い」とよく聞くのですが、たとえばCX-3で、ライバルのホンダ・ヴェゼルのHV車に「メーカーナビ付けて」web見積もりなどされると総支払額でそんなに変わらないのがわかると思います。

 ロードスターの場合、絶対額としてスペシャルパッケージ270万(MT)ですが、これだって先代NCのRS(幌)は270ですよ。たぶんそれに揃えたんだと思います。「RSはビルシュタインとか組んでるやんか」という反論には「マツコネがある」と再反論しよう。
 220のグレード作ってもこのクルマの場合たぶん売れる台数はほぼ同じで、だとしたら50万損するだけなんです。
 まして「S660は」「コペンは」というような比較はなんの意味もない。あなたホントにこのタイプ買う時に、というか具体的にこの3車のうちどれかが欲しくなったとして値段で選びます?
 んなことないでしょ、欲しいのがあったら多少高くてもなんとか工面して買うしか無いですよね。しらがみのない若者が初めての愛車にフィットとヴィッツとノートとデミオで悩むんじゃないんだから。

 前述のようにO君はNC(NC2)のオーナーでしたので、
「いやあでもNCの方が万能性があって……」
確かに2000あるとトルクフルなので飛ばす時にも楽する時にも効きます。特に長距離走る時は楽。また使い切れるよりちょっと大きめのパワーがあるのが一番ワクワクする、それもよくわかります。
 だからNC現/元オーナーが一番モヤモヤするかもしれない。
 でもちょっと考えてみて。
 私達はついこないだまでシビックやレビン・トレノの、1600NAをスポーツモデルとして珍重してたんですよ。それより車重軽くて最新鋭エンジンで6MTだこれ。なんの不満がありましょうか。
 ロングだって今も乗用車の基準排気量はだいたい1500で、それより小さいクラスや軽がわんさか高速走ってんだから、贅沢言うとキリがない。
 まあ今マツダにはRXシリーズが無いので、「これで不満ならこれを買え」と言い放てないのは確かですが。
 電子デバイスの発達でクルマが乗りやすくなったもんで、私達が「扱える」と感じられる領域が広がってしまったような気もします。
 逆に言うと1600cc100馬力程度でも1tできれば900キロを切ると、たとえばゴルフや205のGTIのように、十二分にスポーツカーというのは作れる、これ永遠の法則。だから「いや適するエンジンが」「いやちょうどいいボディが」というのは言い訳に過ぎない。
 ロータス、というかコーリン・チャップマンは偉大ですなあ。

 余談になりますが最近ようやく日本の会社も
「取れる客からは取ったらいい。
 取れない客は何しても取れないし、
 無理して取るとロクな事ない」
という考え方に改めてきつつあるのは、僕個人的には大変いいことだと思います。また昔YAMAHAが安物オーディオに殴りこみを掛けて一巡で撤退した話しましょか?
 クルマメーカーでいうとマツダとスバルはそれぞれ年間生産がワールドワイドで150万台に届かない程度の小さなメーカーなので(トヨタやVWグループは1000万台級)、「あまねく」とか考えると絶対難しい。苦手な面はなんとかごまかして(両者でいうと国内の軽自動車とか)得意なところで共感してくれるお客さんから適切なプレミアムを取る。この方が絶対いいです。ちゃんと利益出すとその分を「買ってくれた」お客さんに還元できる。さらにいい商品の開発をしたり、店舗を綺麗にしたり。

 冒頭書きましたように、家に帰って「みんカラ」やtwitterを漁って試乗や展示の様子を見てますと皆さんホント嬉しそう。特に前3代のオーナー達が愛情半分悔しさ半分で、
「でもボクのクルマの方がいいもん!」
と叫ぶのはいいクルマいいシリーズの証。機械ですから、普通は新しい方がいいに決まってる。そうじゃないのはそれだけではない価値、味とかそういうものが付いている証拠です。

 しかし改めて2台並べてある絵とか見るとNAは偉大ですわ。この超カッコイイNDと並んでも、いささかのひけも取らない。NB、NCはこの偉大な創業者に引っ張られてあの石鹸入れ型のモティーフを繰り返したので、デザイン上は「初のモデルチェンジ」と言えるかもしれません。むしろこの次、10年後ぐらいにはNAのリバイバルをやってくるかもしれないと思うぐらいです。
 シボレー・コルベットのC3、いわゆるスティングレイの例ではないですが、NDのような抑揚の効いたデザインは完成度が高ければ高いほど弄れなくなってヘタに長持ちしてガラッと変えるしか無くなる、そんな気もします。コルベットはC4(’83)で変えたデザインをほぼほぼ今まで引っ張ってますからねい。でも我々の世代だと「コルベット」と聞いた時にイメージするのはC3なんですよ。
 なんか25年後、ロードスター50周年ぐらいには
「NDだけちょっと違うね」
と言われてるかもしれません。いやいや逆にこれがC4の立場に立ってて、
「NDから変わったねー」
かもしれませんけど。
 その頃エンジンはどうなってるんでしょうね。石油無くなる無くなる詐欺が賞味期限切れて元気にガソリンで動いてますでしょうか。それともやっぱり順当に電気で動いてますかね。

 ムリクリ難を探せばカラーが白に3色もあって(アークティック、パール、セラミック)あと黒、シルバー、グレーで「彩り」があるのは赤と水色(ブルーリフレ)しか無い、ことかな。どれも(おなじみの)魅力的な色ではあるんですけど。あと内装も黒一色、だいたいタン色が用意された歴代と比べて少しさみしいですね。
 でもそれもNAデビュー当時は4色(赤、真っ青、白、銀)で、内装も黒一色でしたから。黄色(サンバーストイエロー)や紺色(ディープクリスタルブルー)はすぐにでも塗れますし、内装の白革もやろうと思えばすぐできそうなので、特別仕様車や色替えを待ちましょう。
 ベタですけどソウルレッドにタン革とかいいですなあ。パールに赤幌とかねえ。ホイールもダークカラーカッコイイんですけど、パールやブラック車だと切削あるいはそれこそメッキでキラキラ光るのもいいと思う……

 ──というようなことでワタクシ個人的に
「非の打ち所が無い」
と思います。さすがに年単位で焦らしに焦らし練りに練ったデビューだけあって。車庫もう一つと余分な300万があればいますぐナウ契約書に判子押したい。そして死ぬまで乗りたい。死んだ時に、
「これどうしよう……愛してたからなぁ……」
と家族を困らせたい。

 先代NCがデビューした時にもポエミィなブログを書いた記憶がありますが(もう検索するのも恥ずかしい)、これはNCよりもさらにグッと来てます。
 なんとなれば私、日本車空前にして絶後にしてはいけないビンテージイヤー、「1989」直撃世代でして、当時高校3年生。ウチの高校は図書館に「CG」誌を入れるコジャレたセンスを(当時は)持っててですね。砂を噛むような受験勉強の合間にあのゴージャスな厚いカラー・ページをめくると飛び込んでくるのは、沸き立つような日本車の快進撃。ホンダ・NSXが雨漏りがせずATで乗れるスーパーカーとしてフェラーリを震え上がらせ、日産・スカイラインGT-Rが雨の日も安心誰が踏んでも狂的に速い戦闘車両としてポルシェ・911ターボを蒼ざめさせ、トヨタ・セルシオが無音無振動の別世界を創りだすスマートな高級車としてメルツェデスという絶対王者を混乱の極みに叩き落とし、スバル・レガシィが日本にようやく「生活の豊かさ」すなわちステーション・ワゴンをもたらしたその年にですね。
 我らが東洋工業は何を送り出したか。
 ちっぽけなクルマです。
 屋根もない。
 上記のスター達が4WDだ四輪操舵だ電子制御だV8だオールアルミボディだエアサスだVTECだツインターボだ、「ハイテク」「ゴージャス」「フューチャー」の三拍子を高らかに謳い上げているバブル全盛期に、旧いファミリアのエンジンと旧いタクシー用ルーチェのミッションと、非効率な「フロント(縦置き)エンジン・リアドライブ」という古典的な姿で現れ、価格に至っては「誰でも手が出る」わずか170万円。
 時代を逆行するにもほどがあります。
 しかし森の中に佇むその真っ赤なクルマに、僕のそして世界中のクルマ好きはそれらスーパースター達にも増して引きつけられた。
「これはなんだ」
 わたし71年生まれで物心ついて初めてのクルマ世界がスーパーカー・ブームでしたので、その前に主にイギリスで「ライトウェイトスポーツカー」という文化があったことを知らなかったんです。でもそんなウブなクルマ好き予備軍青年になりかけ少年でも見た瞬間、
「これはきっといいものだ」
と目が拓かれました。
 やっぱり普遍的な魅力があるんですね。
 風を光を感じながら小さく軽くよく動くクルマで走る。
 それはとても、とてもとても楽しいことだと、乗ったことのない人間にもひと目で伝わるんです。
 普遍的な魅力をありあわせの技術と知恵と工夫ででっち上げる。今風に言えばブリコラージュでありサステナブルでありスローライフ。横井軍平のファミリーコンピュータですよ。
 この古くっさい1台こそ、あの時のどのスターよりも先を未来を走っていた。まさにその名の通りの「ロードスター」です。
 その価値を直感で理解した人々もちゃーんと世界中にたーくさん居て、狂ったように売れまくりました。

 じゃそのまま買えばいいじゃん、ってそうはいかない。
 なぜならクルマ持ち大学生なんてもんは家族に友人に、ドライバーとして扱き使われるからです。使われるというとなんだか隷属的な響きがありますが、私幸い運転好きでしたし(ヘタですけど)そうでもなければ走らない道をたくさん走ることができるので、楽しかったんです。
 2座だとそれがかなり限定されてしまって……
 自信の無い若い頃ですから、こんなしょーもないことでも誰かの役に立ってるのが嬉しかったのかもしれませんね。

 ということで、以降ずるずるとVスペSスペの発表やNB、NCへのモデルチェンジ毎に「ああ欲しいなあ」とは思いつつも「でも僕の環境では」というイイワケをかまし続けて26年。
 なんだか、本当にお恥ずかしい話なのですが、このロードスターに対して長い年月続けた、
「憧れる」→「いやでもそれは僕には」
のコンボこそ、この間の僕の生き方を象徴しているようで、なんとも微妙に悔し情けなホロ苦いです。
 そんな私に問いかけるように。
 若干アメリカンな雰囲気でシルバーなどメタリック・カラーが似合ったNB、パワフルで本格スポーツカーとも渡り合えイエローやホワイトのソリッド・カラーの似合ったNCに替わって、NDはあの森の中のNAのような真っ赤な衣装、その名もソウルレッドを身にまとって現れたのです。

「わたしはこうなったけど、あなたはどう?」
「いやホントすいません1ミリも成長していません」
「そう。
 ……でもわたしもあいかわらずロードスターよ」

 写真や実車で斜め上から見てると怖い顔に見えますが、実は前からしゃがんで見ると歴代ロードスターと同じ、スマイルフェイスなのです。これをリードデザイナー(もちろんNAのオーナー)は
「洗車・ワックス掛けをするオーナーにしか微笑みを見せないツンデレ」
と表する。
 初めてあの娘に遭ったのは1989年。
 いまは2015年。
 遠いところへ来たような、何も変わってないような。

posted by 犀角 at 22:36| 雑記