2016年08月22日

本「大本営発表 改竄・隠蔽・捏造の太平洋戦争」辻田真佐憲




「玉砕」という言葉が「大本営発表」で使われたのは1年に満たなかった、というのは意外でした。


 戦時中報道の欺瞞を象徴する「玉砕」と「転進」ですが、さすがにリアルタイムの人々にとっても、地位の上下を問わずいろんな意味で「キツい」と感じられたらしく、実は終盤には「全員戦死」という即物表現になったそうです。

 本書では「大本営発表」がなぜああいうメチャクチャになったか、というメカニズムを多角度からえぐります。
 大正デモクラシーなどで強い批判に晒されたがゆえに、本腰を入れてメディア対応(懐柔)に出た軍部。
 満州事変をきっかけに、戦争報道が「売れる」がゆえにそれに寄り掛かるメディア。
 過大あるいはあやふやな戦果を上げる現場、命がけの現場に強く出れないデスクワークの情報局。
 特攻はその最たるもので、みんな突っ込むわけですから戦果確認がすごく難しい。でもそういう現場から「戦艦1空母1撃沈!」という報告が上がると、「そりゃなんぼなんでも無いやろ」とは言えない。で、そうリリースを出す。詰めてる新聞記者も「いやさすがに」とは思うわけですが、ツッコミ入れてもしょうがないのでそのまま流す。国民も「そんなに沈めてるならこの空襲は何だ」と白けきっており、昭和天皇までもが苦虫を噛み潰しつつ「サラトガは4回沈んでないか」と苦言を呈する。

 事実は動かしがたいものなので、それを改変したり、隠蔽したり、ミスリードを誘うように切り貼りしたり加工したり、してしまうと、その間違った現状認識を元に次の行動を決めるので、誰よりもその動かした本人にとってひどい結果が出る。

「台湾沖航空戦で大勝、米空母をこれだけ沈め航空機をこれだけ撃墜」と発表するのですが、実はそれは架空の戦果で米機動部隊はほとんど無傷、ところが海軍は真実を知ったあともそれを黙ってて、結果、その戦果を前提に行動した陸軍がフィリピンで悲惨な戦いに。

 どんなに厳しくとも、正確な事実を知るのが何より大事。
 でもメディアの首脳が首相と一緒にお寿司食べてるご時世では、無理ですな。それだけで職業不適格だと思うのですが、そういう事実があっけらかんとオープンになっててそれを恥ずかしがりもしていないという時点で、問題意識も無いようなので、いやむしろ「それこそが我が使命」と思ってるようでいそいそと天ぷら食べに行くみたいなので、無理。
 自分で勝手になんとか仕入れんといけません。
 やり方は?
 うーんそこから自分で考えないといけませんね。自分なりの信頼できるチャネルを築く。というと大変そうですが、「その分野に詳しい友達が居る」だけでも全然違うと思います。

 軍事・政治に限らず、情報の元締めから手渡される、彼らにとって都合のいい(と思い込んでるが長期的に見ると彼らをも破滅させる)情報だけ鵜呑みにしていると、生命さえ危機に晒される、という機序を丁寧に追って浮き彫りにしてあります。
 難儀なのは、それは悪でも無能でもなく、上記のようにそれぞれのポジションにある人が、それぞれなりに合理的に・一生懸命にやった結果、そうなる。これが本質的問題。
 残暑厳しい夏の夜に背筋が凍る、良書です。
 おすすめです。


 BuzzFeedに著者へのインタビュー込み記事があり要約載ってるので、時間無い方はこちらでも↓

「政治とメディアの距離がおかしい」 大本営発表のウソ、今への教訓 若手研究者が調べ上げた「不適切すぎる関係」の末路(石戸諭)
https://www.buzzfeed.com/satoruishido/daihonei-1945?utm_term=.ohyn2O9jR2#.vl0R32KPq3

posted by ながたさん at 06:43|