2016年10月28日

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●マンガ「そして<彼>は<彼女>になった 安冨教授と困った仲間たち」細川貂々



 読んだあと、奥さんと二人で
「私たちは幸せだったねえ」
と嘆息しました。


 安冨先生、そしてそのソウルメイトのふうちゃんが、生き辛さとその背後に潜んむ母親の呪いから解放される道程を描きます。貂々さんのかわいい絵柄、ゆったりしたレイアウトが重いテーマをぐっと軽くしており、ぐいぐい読めます。
「毒親」や「墓守娘」といった単語にピクッと反応しつつも、ニュースや書店の平積み本を見ないフリをしていたあなた。このマンガならなんとか手に取れるはず。

 親、特に母の呪縛はおそろしいもので、冒頭申しましたように、ウチの両親も、奥さんの両親も、そりゃ息子・娘からすれば言いたいことの一つや二つ、三つや四つもありますが、しかし子に殴ったり、嫌がらせをしたり、いじめたり、はしなかった。
 もうそれだけでもありがたい。
 むしろ親との関係が良好な方こそこの本をめくってみて、幸運と感謝を感じつつ、友人・知人にどうやらこれが元で苦しんでる人がいるならば、「これを読んでみなよ」ぐらいのアドバイスが……できればいいんですが。むしろ「……あれ?本当に良好なのか、私と親との関係」とヤブヘビだったりして。
 目に見える暴力、虐待やネグレクトの形で現れていれば、あるいは周囲が助けに入れるかもしれない。でも目に見えない形に隠蔽されていると、気づかないうちに大変な事態になる。だから怖い。
 おそらく、ここが人生の苦の大きな割合である人は、私達が今思っているよりもずっと多い。

 そしてその枷を外すことができると、ジェンダーや家族観、はては仕事の進め方などの「こうあるべき」という思い込みも次々に外れて、どんどん自由になれる。
 自由になると、笑顔が多くなって、しかもにっこり大きく笑える。

 最近、安冨先生は新聞や雑誌に出る時も「にっこー」と笑ってる写真が採用されることが多いのですが、これ見て「カチーン」と来る人が居る。そういう人は、なにか枷に嵌められていて、そういう笑顔ができない、から本気でムカつくんです。ホントに笑える人は、人の笑顔見ると、自分も笑えてきますからね。
 先生に限らず、誰かが幸せそうにしているところ、自由に振る舞ってるところ、を見て苛立ちを覚えるようなら、それは自分の問題です。なにかをさせられている、あるいはしなければいけないと思い込まされている、その「なにか」を見つけて、あるいはそう仕向けている「誰か」を見つけて対処しない限り、ずっと不機嫌で自分を嫌い周囲を呪う日々が、冗談ではなく死ぬまで続く。

 そこ見るのホントに辛いんですけど、見ないと死ぬ。
 というか、すでに死んでいる。

 しかしあたらためて思いましたが、マンガってすごい。
 貂々さんのような名手の手になれば、表現力が豊かな上にエッセンスを短時間でインパクト高く伝えられる、すごいメディアです。私はたまたまご当人たちから直接お話を聞いたり、あるいは著作に書かれたものを読んだりしてるのですが、それでも、ここにまとまってるのが一番わかりやすい。
 本物より本物。
 それでいて重くなりすぎない。安冨先生が「もーダメだ…」と倒れるところとか、アハハと声上げて笑っちゃった。似てる。

 やはり、むしろ「困ってない」と思っている人にこそ読んでいただきたい、傑作だと思います。




posted by ながたさん at 11:03|