2016年12月12日

12/11


 マイクロバイオータ!


 きょうはこれ。
 万人にオススメの一冊。

●本「あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた」アランナ・コリン



 またその売らんかなの「9割」タイトルはええて、と引かないで。原題が「10% HUMAN」なので許してあげて。

 著者コリンさんは博士号(専門はコウモリの超音波)持ちのサイエンス・ライター。熱帯で研究中に病気拾っちゃって、それを抗生物質の絨毯爆撃で治した……ところまではよかったのですが、それ以降身体がボロッボロ。いったいこれはどうしたことか、と調べてゆくと浮かび上がってきたのが、近年その生命体にとっての重要性が明らかになりつつあるマイクロバイオータ、すなわち我々の体の中特に腸内に住まう微生物たち。

 人の細胞は数十兆個、それに対して細菌数は数百兆(ここ諸説あるらしくて必ず10倍でもないそうですが、まあそのぐらいたくさん)まさに「遺伝子の乗り物」ならぬ「微生物の容れ物」が私達人間。

 ガイア理論、地球を一個の生命体とみなすと……というモノの見方がありますが、私達のカラダも同じ。フラクタル構造。
 CO2には懐疑論があるにせよ、私達の出したフロンがオゾンホールを開け、各種汚染物質が同じ人間たちを(動植物を巻き込みながら)痛めるように、微生物たちも日々是生きてなにかを食べなにかを出し、それが環境そのものである人体に影響する。また人体側の変化や取り入れたもの、侵入してきたものが微生物たちの生き方に大きな影響を与える。

 当然抗生物質なんて入ってこようものなら、まさにジェノサイド。ところがこれが良くしたもので、そういう時でも盲腸(虫垂)に隠れてた生き残りが出てきて普通は元に戻る。しかしこの緊急システムもうまく働かない状況もあって、悪い細菌が異常に繁殖してしまい、それが昨今の難治病、たとえばクロストリジウム・ディフィシル(下痢しまくってそのまま死ぬ)などに繋がる。
 それどころではない、糖尿病、アトピーや花粉症などの各種アレルギー、はては肥満までもが実は腸内細菌の変化が影響しているのではないか、という研究が(まだ道半ばではあるものの)あれやこれやと例示されてゆきます。

 もうね、食物繊維とるしかない。
 ごはんに押し麦を混ぜるしかない。

 突如自閉症を発症した息子、その機序を解き明かそうとし奮闘する元プログラマの母。ああここにも腸内フローラの影響が。
 赤ちゃんは生まれる時、産道を通ることでおかあさんから「最初の細菌セット」を受け取り、次に母乳に含まれる細菌とその餌となるオリゴ糖が次の状態を引き継ぎ、母乳は徐々に成分を換え普通の食事を消化吸収できる細菌セットへ導いていく。なんという神秘。

 ぼかぁ帝王切開の粉ミルク育ちなんですが……

 読んでるとだんだんその細菌叢を痛めてしまったら取り返しがつかないんじゃないか、と鬱々してくるのですが、しかしそんな僕でもまあまあなんとか大病せず生きており(鼻はアレルギーあるんですが)、胃腸は不思議に丈夫。別のところで見た話ですが、極端に違う食生活をさせるとどのぐらいで細菌叢の模様が変わってしまうかの実験では(たとえばベジタリアンに肉漬けの生活をさせる、など)4日ぐらいでまるっきり入れ替わったりするそうなので、もうこうなったら腸に、いや腸にいる細菌たちに、いや腸にいるぼくらに都合のいい細菌たちに、おいしい食事を摂るしかない。
 そのうちAIとビッグデータが、その人その生活での「最適細菌セット」を弾き出してくれて、ヤクルトみたいに宅配されてくるようになるに違いない。
 あ! ヤクルトを思わず取ってしまうのはあれは本能の為せる技……

 冗談抜きで、いわゆる「糞便移植」は既に上記クロストリジウム・ディフィシルなどで特効といっていい効き目を示しており、細菌だけ濾し取った液体を内視鏡でちゃーっと入れるだけで「もうすぐ死ぬ」みたいな難病患者が数時間で治る様はまさに魔法。
 中国の古い書物にも載ってるんですってそれ。もうどうにもなんなかったら健康な人のうんち食えって。
 本編中では「21世紀病」と表現されていますが、いろいろ起きている心身の不調はほとんどここ、「肚」とか「ガッツ」から来てるんじゃないかと思うと、いやー昔の人ってよくわかってたんだなあ、と思います。

 巷間問題になっている抗生物質の濫用に対して、「耐性菌が出るから」では他人事なわけですが、「腸内細菌叢にダメージ」と言われれば誰しも考え込まざるを得ないもの。アスベストやフロンのように、やっぱり「うまい話」って無いんですよね、効く奴は反作用も強力。

 あと「夫婦が似てくる」という話がありますが、同じ家で同じもの食べてればマイクロバイオータが似てくるのは当然で、そこが似てるとそりゃ似ますよ。
 微生物の中には宿主をコントロールして生活環の次の段階へ(次の宿主へ)進ませるようなものもありますが、つまり私達が恋愛などと呼んでるものも、実は腸内のちいさいのが別の腸を観て「ああ、あそこステキ」と思ってお近づきになりたいと思った結果かもしれない。「あのひとはなんだかいいひとだ」と思う人は実は細菌叢が多様で豊かなのかもしれない。

 さて腸内細菌バランスは食べてるもので変化していくそうなので、野菜多め食物繊維多めにしていくと、それが餌になる細菌が増えて、優勢になって、さらに効率よく野菜からエネルギーを摂取して……と循環が回るようです。そうなると人間(本体)の方も美味しく感じてくるんでしょうね、きっと。
 昨今、食べない人とか、ものすごい少食で生きてる人がいらっしゃいますが、あれもつまり細菌バランスが生命球みたいな感じで自給自足的に回るようなものになってるんじゃないでしょうか。呼吸さえしてればCとHとOとNと全部入ってくるので、理屈上はいろんな細菌が協同すればイケそうですね。
 アルコールなんかもザルみたいな人居るでしょう。あれたぶん肝臓だけじゃなくて、その手前で分解する微生物とかいっぱい居るんですよたぶん。あるいは逆に出たアセトアルデヒドが好きですぐ分解するヤツとか。いやわかんないですが。

 ともかく大変おもしろい本なので(出版もごく最近なので知見が新しいのもよい)ぜひ。こないだジュンク堂アバンザ行きましたら似たようなハードカバーがあと2冊並んでまして、パラパラめくった感じではこれが一番おもしろそうでした(どちらもしっかりした本っぽかったですが)。読み応えはありますが、難しくはぜんぜん無いです。

 モノの見方が変わる本、を良書と定義すれば、これは必読といっていいです。

posted by ながたさん at 14:10| 雑記