2018年08月06日

本「不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか」鴻上尚史




 9回特攻に行って9回帰ってきた男のおはなし。

 時代はものすごい勢いで流転するもので、「KY」という言葉が流行ったのはつい先ごろかと記憶するのですが、いまや「空気読まない」どころか「空気ってなに?」の方が強力であると多くの人が気づき、若い子が各界で大活躍したり、虐げられていた人々が声を上げたり、しています。
 たいへんいいことですね。

 ハラスメントもいじめも虐待も、以前は無かった、のではなく、隠蔽されていただけで、それが顕になる、ということは解決に向かう一歩なので、喜ばしい。もちろんご当人たちは大変ですけど。

 その極北、悪名高い強制自殺攻撃(いわゆる特攻)について鴻上尚史が「その男」佐々木友次氏を文字通りの生き字引に迫ります。

 佐々木さんは幼少の頃から飛行機が大好きで、それが高じて飛行機乗りに。爆撃機を駆って戦場を飛ぶわけですが、大戦末期に特攻の命令が来る。
「なにをアホなことを、爆撃なら何度でもできる、特攻なら一度で終わりではないか」
と極めて普通の理屈を述べ、信じ、そして実行した。
 一度ならず爆弾をボディに直付けされたりするのですが、そこは気脈の通じる整備兵が戻してくれたり、自分でなんとかしたり。
 生還を繰り返す度に上官が発狂していって、最後には「死ね」と罵倒するわけですが、それでももちろん止めない。

 この本読んで勇気づけられるのは、まず
「こういう人がちゃんと居たんだ」
という点で、自分もそうすれば、つまり信念に従えばいい。(もちろん死にたい人は死ねばよい)
 で、そしてこういうふうにすると、日本の場合は命令そのものが最初から合理性の外、なのでだいたい処罰できない。命ずる方も「おかしなことだ」と理性は理解しているので、そこ突かれると発狂して喚き散らすしか無くなる。
 終戦後復員省でバッタリこの上官に出会った佐々木さん、戦場では「殴ってやろうか」と思っていたそうですが、そのしょぼくれた姿を見て、「ああこの人もかわいそうだ」と萎えたそうです。

 ミルグラム実験(Wikipedia)が示すとおり、権威組織の中では多くの人間はカンタンに命令実行マシーンになり、それは別に戦争中だから、日本軍だから、ではありません。きょうも世界中のどこかの組織で100%おかしな命令がくだされて、くだされた方が被害を受ける、というシーンが繰り広げられています。
 その時、大事なのは、佐々木さんが示した通り、
「はぁ!?」
と声に出して絶叫して、「私ならこうする」を行動することでしょう。
 それでクビになったらクビになった方がいいですよ、死ななくていいもん。

 これは日本軍の底抜けの愚かさが描かれた作品ですが、きょう8/6は原爆が炸裂した日。いかな理由があれ実験ですでにそのハルマゲドン的威力を十二分に知っていながら、それを何十万の人々の暮らす頭上に落とす、というのはおそらく人類史上空前にして絶後にしなければならない凄まじい狂気です。それは、アメリカが悪いとかそうさせた日本が悪いとかそういうことではなく、
「人間は(一歩間違えると)そうなるものだ」
という事実を示します。
 だから今日は、それぞれの属する集団・組織で
「そのスイッチを押せ」
「死んでこい」
と言われた時に、
「はぁ!?」
と言える自分が胸に居るか確認する、居なければ育てる、そんな日にしたいものです。
 ミルグラム実験でも、何%かの人は異変を感じたら最初から命令を拒絶できるそうです。
 誰かにできるなら、(練習すれば)だいたい自分にもできる。

 僕ですか?
 昔は割と自信あったんですけど、最近「丸くなった」とお叱りを受けるので、心のトゲトゲを磨き直さねば。

posted by 犀角 at 00:00|