2019年02月26日
元オリンピック選手の僕が新聞記者になったら、現役国鉄総裁が謎の怪死を遂げてその陰謀を一生賭けて追いかけるはめになった件について。
これ劇的におもしろいッスよ(不謹慎)
創り物のミステリとか読んでる場合じゃない(煽り)
本『誅殺 下山事件』矢田喜美雄
国鉄総裁が失踪後、轢死体で見つかった「下山事件」に迫る著者・矢田記者の丁寧かつ執拗な調査報告、「下山事件」の基礎資料と高く評価される一冊です。
残された血痕や遺体と遺留品の状況から、どう考えてもあからさまに他殺なのですが、警察(特に捜査一課)に謎の圧力が掛かったようで、目撃者の証言が無理矢理捻じ曲げられて自殺へと世論が誘導されます。そこにのっかる御用学者たち。闇を手広くやっちゃって大学をクビになった元・有名教授が一発逆転を狙ってかしゃしゃり出てきたり、まーひどい。ほんとひどい。
いまといっしょ。
70年1ミリも進歩してない。
おそろしいですね行政官僚制って。東アジアの宿痾ですよね。真善美オール無視の過剰忖度による過剰局所最適化と過学習。これで国が滅ぶ。何度も何度も。
反面、当時だけではなく10年20年、時効を迎えてなおしつっこく追った結果最終的には
「死体運んだ」
という人物から証言を取り付けたり、古き良き時代のジャーナリストここにあり、と思える点で少しホッとする。
結局、他殺は他殺で間違いないし、だいたいどういう組織が中心になってが行った陰謀なのかはわかるのですが、どうしても弱いのが「なぜ」という点。
一般的に、この事件のあとに連続して起こった三鷹事件(無人列車暴走)、松川事件(レール細工による列車脱線転覆)と合わせて
「異常な事件が労働運動関係者によって起こされたように印象づけ、GHQ(関連組織)が日本の左傾化(赤化)を食い止めようとしたもの」
という動機づけが語られるのですが、もう70年経ってる我々にはその肌感覚というか危機感がよく理解できず、「そうかなあ?」と思ってしまいます。
もちろんアメリカは共産革命が怖すぎて水爆作って月へ行けるロケット(ができればソ連にミサイルを飛ばせる)を作ったりしてるので、このぐらいのことは十二分にやらかしそうではあるのですが……
ともかく何百万人もが死んだ第二次世界大戦直後、朝鮮戦争直前、謀略華やかなりし頃、このぐらいのことはなんのためらいもなく起こされたことなのかもしれません。
そこの「Why?」はモヤッとしてるのですが、その手前まではグイグイ剥がしていくところがホントおもしろくて(すいません)時間を忘れます。
工場で働く若い男女が労働運動の方針で議論が白熱して、「よし(夜の)河原で話をつけようじゃないか」と連れ立って歩いていたら実行犯らしきクルマを目撃してしまう、とかどこの山本直樹作品やねん、という感じですね。すいません不謹慎で。
以下「国鉄三大ミステリー事件」のWikipedia。でも本書一冊読んだ方がいいですよ。
・下山事件
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8B%E5%B1%B1%E4%BA%8B%E4%BB%B6
・三鷹事件
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E9%B7%B9%E4%BA%8B%E4%BB%B6
・松川事件
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%BE%E5%B7%9D%E4%BA%8B%E4%BB%B6
posted by 犀角 at 00:00| 本