2012年07月03日

本「増税は誰のためか」神保哲生・宮台真司・神野直彦・高橋洋一・野口悠紀雄・波頭亮・大野更紗・武田徹




 少しは学んでおかないと賛成も反対もできませんからね。

 いわゆる埋蔵金、特別会計の闇、国民背番号制、歳入庁、消えた保険料、インボイス、インタゲ、90年代の減税のツケ、実は先進国で最も低い課税負担率、年金を税でカバーするおかしさ、年金・医療保険しか社会保障の無い日本、産業構造改革の必要性、世界一貧しい人に冷たい日本人、ベーシックインカム、最後に「困ってる人」大野さんの体験に基づく「誰が弱者のくじを引くかわからないのだから」社会的制度の充実の必要性……

 古い「思い込み」が次々に今や現実ではない、ことが明らかにされていき、目から鱗です。
 ご存知ですか今日本人よりアメリカ人の方が労働時間長いんですって。(ちなみに今や野菜食べる量も彼らのほうが多いです)

 ショッキングな値はやはり「働けない人を社会がカバーする必要性は?」と問われて「要らん、死ね」と答える人が38%も居て、これは先進各国ではズバ抜けて高い値です。
 あの自己責任のアメリカでさえ28%、自由と合理主義にうるさいフランスで17%、いざ戦乱となれば泥のように民衆がすり潰される中国でも12%。あと各国は1割内外です。

 どんなに「あたりまえ」に思える物事でも1割ぐらいのへそ曲がりがいるもので、そう考えるとこの問題でもやっぱり10%前後、というのが「人間であるならば」標準的な数字だろうと思います。もちろん日本人だけがDNAレベルで性酷薄ということも考えにくく、ということはつまり現在の日本人は、なんかよくわからないんですけど非常に危険な精神状態に追い詰められている。

 極端に余裕が無いのか、
 よけいな理屈か思い込みが邪魔をするのか、
 あるいは他の理由か。

 ともあれ現実として、例の河本準一さんの生保騒ぎを見ても、ちょっといったん頭冷やして、「なぜこんなに俺たちは『困ってる人』に冷淡にならざるをえないのか」を考え直したほうがいい、と思いました。

 これは僕の腰だめイメージなのですが、社会制度が制度設計が悪いか、あるいは巧く機能していないもしくはその両方、の時に、それを認めることは人間にとって非常に苛立たしいことです。なぜなら、「直す」「正す」手段が限られていて、つまり直る・正される可能性が極めて低いから。

 私たちの選んだ政治家がロクな仕事をしていない。
 官僚にいうことを聞かせられない。あるいは洗脳されいいなりになっている。
 辞めさせたいが選挙は遠い、彼らだけで「政局」というお遊びを楽しんでいる、もしくは他の愚民共がポピュリズム的な争点で噴き上がって俺様の高邁な問題提起が通用しない。
 クソが、こんな日本もう捨ててやる!

 こんな感じですかね。
 今般の大飯原発再稼働問題でも全く同じ構図だと思います、首相官邸を10万だか20万人で取り囲んでも首相に「大きな音だね」と言われたら、もうこちらちょっと手がないですからね。
 この無力感・脱力感。
 これがニヒリズムというかシニカルな厭世観を生み、「生」への希求と敬意を喪わせ、つまり「勝手に死ねば? オレももうどうでもいいわ」みたいな。

 よろしくないですね。

 よくナチというかヒトラーが正規の手続きでドイツ国民に選択された、という例が挙げられますが、どんなシステムでもそのシステムを使う側の人々になんらかの歪みがあれば、歪んだ結果しか出ない。
 これはまったく鶏・卵の問題だと思うのですが、逆にそうであるならばまず、人間らしくというとおおげさですが、「やっぱり困ってる人助け合わないと、自分だっていつそうなるかわかんないんだし」という身体性に基づく実感から、蘇らせて行く他ないんですかね。

 消費税で言うといわゆる「輸出戻し税問題」、巨大な輸出製造業が払い戻しを何千億円と得てる話とか、インボイスが無いために大小事業者のぽっぽないないで消えてる分がごっつ大きくて非効率・不公平だとか、もう最初に導入された時からずーっと言われてる課題が今もあります。
 事業者の方も法「人」なんですから、社会の構成員として他の人々に恥ずかしくないような、胸張れるような行動をおねがいしたい。

 絶望したり諦めたりしても何も進まないので、「え、これっておかしいですよね?」といつでもクールに言い放てる知識&理論武装をしておこう、と思う昨今です。
 その端緒として大変よい書物。
 ホンマはそんなことせんでええのが、「センセ、たのんまっさ!」で済むのが、代議制民主主義のはずなのですが……
 
posted by 犀角 at 12:04| 雑記